ズロースとは?パンツとの違いや白木屋火災の真相まで歴史を解剖
年配の世代が口にする「ズロース」という言葉を聞いて、具体的にどのような形の下着なのか、現代のパンツとどう違うのか疑問に感じた経験を持つ人は少なくありません。明治から昭和にかけて日本の女性服飾史を大きく変えたこの下着は、洋装化の波とともに庶民の暮らしへと急速に浸透していきました。
単なる「昔のおばあちゃんの下着」というイメージにとどまらず、その誕生背景には日本の衛生観念の劇的な変化や、都市伝説として語り継がれる歴史的事件が深く絡み合っています。現在ではシニア層の定番肌着としてだけでなく、締め付けを嫌う層や介護現場で実用的な価値が再評価されているズロースの正体と、その知られざる軌跡を紐解きます。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:ズロースは英語の「drawers」に由来し、股上が深くゆったりとした裾広がりの初期型女性用ショーツを指す
- 要点2:「白木屋火災でズロースが普及した」という通説は後世に作られた俗説であり、実際は衛生運動や生活改善運動が契機となった
- 要点3:現在も通気性や脱ぎ穿きの容易さから介護現場や冷え対策として根強い需要があり、大手肌着メーカーで販売が続いている
【基本解説】ズロースとは一体どんな下着?語源と英語表記のルーツ

ズロースとは、主に女性や子どもが着用してきたゆったりとした形状の下着です。語源は英語の「drawers(ドロワーズ/引き出し・履くもの)」であり、これが日本に導入された際に日本語風に転訛して「ズロース」と呼ばれるようになりました。英語圏では古くからズボン下や股引きのような形状の下着全般を指す単語として使われていました。
形状における最大の特徴は、現代のショーツのように体に密着せず、全体的にゆとりを持たせたカッティングにあります。股上が非常に深く作られており、お腹から腰回り全体をすっぽりと包み込みます。ウエスト部分には平ゴムや紐が通され、裾口は締め付けのないストレートな形状、あるいは緩やかなゴムが入った提灯(ちょうちん)型が一般的です。
似た言葉である「ドロワーズ」との違いについても整理が必要です。服飾史の文脈において、ドロワーズは19世紀の欧米でドレスの下に着用されたフリルやレース付きの装飾的な長下着、または現在のアニメ・ゴスロリファッションにおける見せるアンダーウェアを指すケースが多く見られます。一方、日本で定着したズロースは装飾を削ぎ落とし、綿やクレープ生地を用いた純粋な実用肌着として独自の発展を遂げました。
【徹底比較】ズロースとパンツ・ブルマは何が違うのか?形状と機能の決定打

ズロース、現代のパンツ(パンティ・ショーツ)、そして学校教育でおなじみだったブルマは、いずれも下半身に身につける衣類ですが、その設計思想と構造は大きく異なります。
現代の一般的なパンツ(ショーツ)は、伸縮性に富む化学繊維や立体裁断を駆使し、臀部や鼠蹊部(そけいぶ)にぴったりとフィットさせてアウターに響かない構造を追求しています。対してズロースは、布地自体のゆとりによって皮膚との間に空気層を作り、締め付けによる圧迫感を極力排除する構造です。股布(クロッチ)部分の当て布も幅広に取られており、通気性と吸湿性を最優先に設計されています。
学校体操着として普及したブルマ(ブルマー)とズロースの比較では、目的の違いが明確に現れます。ブルマは運動時の足さばきと外からの視線を遮る目的で作られたため、脚口に強めのゴムを入れて密着度を高めたデザインが基本です。一方のズロースはあくまで肌着であり、運動機能よりも日常の快適性や着脱のしやすさが重視されました。
また、ズロースの派生形として知られるのが膝上から膝下丈までをカバーする「長ズロース(ロングズロース)」です。長ズロースは太もも同士の摩擦を防ぐ股擦れ防止や、冬場の防寒対策として重宝されました。特に裾さばきが重要な和装時において、汗を吸い取り着物の裏地を痛めないための実用的なインナーとして重用された歴史があります。
【歴史の真相】白木屋火災と女性下着の普及にまつわる「都市伝説」を暴く

ズロースの歴史を語る上で欠かせないのが、昭和7年(1932年)12月16日に発生した「白木屋デパート火災」にまつわるエピソードです。日本の服飾史において長年、次のような説が広く信じられてきました。
「高層階に取り残された和服姿の女子店員たちが、煙から逃れるために救助用のロープやネットへ飛び移ろうとした際、下着(ズロース)を穿いていなかったため、強風で着物の裾がめくれて恥部があらわになるのを手で押さえようとして墜落死した。この惨劇をきっかけに、日本女性の間にズロースを穿く習慣が一気に広まった」
しかし、近年の歴史研究や当時の公的記録の精査によって、この劇的な物語は事実ではない「都市伝説」であることが判明しています。当時の警視庁消防部が作成した公式報告書や現場の検証記録、生存者の証言記録には、裾を押さえて転落した女子店員に関する記述は存在しません。死亡した店員たちの多くは、一酸化炭素中毒による窒息死や火炎に巻かれたことによるものでした。
では、なぜこのような話が定着したのでしょうか。火災後、百貨店業界や洋装推進派の文化人、あるいは下着メーカーが「洋装化と下着着用の必要性」をアピールするための宣伝材料として火災の逸話を脚色し、新聞や雑誌などのメディアを通じて広めたことが要因とされています。実際のズロースの普及は、特定の災害による突発的な変化ではなく、大正期から進んでいた女性の社会進出、学校教育での洋服採用、衛生思想の向上といった複合的な社会的変化によるものでした。
【日本の生活史】明治・大正から昭和へ|和装用下着の変遷とクレープ肌着の登場
日本の女性が日常的にズロースを穿くようになる以前、明治・大正時代の女性風俗における下着の主役は「湯文字(ゆもじ)」や「腰巻」でした。腰巻は腰から下に巻きつける布であり、股間を二股に分ける構造にはなっていませんでした。この伝統的な下着は通気性が良い反面、洋装化が進んで椅子に座る生活が増えると、めくれ上がりや衛生面での課題が浮き彫りになります。
大正時代に入ると「生活改善運動」が叫ばれ、女子学生を中心に洋装化が進展します。これに伴い、従来の腰巻から二股に分かれたズロースへの移行が始まりました。股間を包み込むズロースは、活動的な動きを可能にし、生理処理の衛生性を飛躍的に高める革新的な肌着として受け入れられていきます。
昭和初期から戦後にかけてズロースの普及を強力に後押ししたのが、日本の気候風土に適した「クレープ肌着(楊柳・クレープ織り)」の登場です。強撚糸(強く撚りをかけた糸)を使って表面に細かいシボ(凹凸)を出したクレープ生地は、肌への接触面積が少なく、汗をかいてもべたつきません。高温多湿な日本の夏において、クレープ生地仕立てのズロースは汗冷えを防ぐ理想的なインナーとして、昭和の家庭に爆発的に広まりました。
昭和30〜40年代以降、化学繊維の発達とともにナイロン製のフィットショーツ(いわゆるパンティ)が台頭すると、若い世代の主流はスリムなパンツへと移り変わり、ズロースは次第に中高年女性が愛用する肌着へと位置づけを変えていきました。
【2026年の現在】ズロースは今どこで買える?シニア介護用や愛好者のリアルな評判
現代において「ズロース」という名称は日常会話から薄れつつあるものの、衣料品市場においては現在も確実に生産・流通している定番カテゴリーです。
現在ズロースを購入できる主な販売チャネルは以下の通りです。
大手総合スーパー(イオン、イトーヨーカドーなど)の肌着売り場や、「ファッションセンターしまむら」などの実用衣料チェーン、地方の老舗衣料店では、シニア向け肌着コーナーに必ずと言ってよいほど並んでいます。また、グンゼ(GUNZE)などの老舗肌着メーカーは、上質な綿100%やクレープ素材を用いた快適ズロースを継続して製造・販売しています。さらにAmazonや楽天市場といった主要ECサイトでも、「クレープ ズロース」「深履き ゆったりショーツ」といったキーワードで多種多様な商品が手に入ります。
近年、特に高い評価を集めているのが介護現場における実用肌着としての活用です。介護用ズロースには以下のような明確なメリットがあります。
第一に、ウエストや太もものゴム圧が極めて緩やかに設計されているため、長時間の着用でも皮膚にゴム跡がつかず、血行障害や床ずれのリスクを低減させます。第二に、紙おむつや尿取りパッドの上から穿いても全体をふんわりと包み込むゆとりがあり、パッドの位置ズレを防ぎつつ締め付け感を与えません。第三に、生地の伸縮性とゆとりによって介助者が着脱させやすいという点が、被介護者・介助者双方から高く支持されています。
さらに、2026年現在の若い世代の間でも、就寝時のリラックスウェアや「締め付けない温活インナー」として、あえてズロース形状のゆったりショーツを選ぶ動きが見られます。鼠蹊部を圧迫しない設計がリンパの流れを妨げず、冷えやむくみの解消に役立つという点が、健康志向のユーザー層から静かな支持を集めています。
【ズロースとは】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:ズロースと現代のショーツは、歴史的にいつ頃入れ替わったのですか?
A1:明確な転換期は昭和30年代後半から40年代(1960年代)にかけてです。この時期、ミニスカートの流行やジーンズなど細身のアウターの普及に伴い、ゆったりしたズロースでは外側に下着のラインが響くため、体にぴったり密着するパンティ(フィットショーツ)が急速に主流化しました。
Q2:ズロースは現在でも若い世代が履くメリットはありますか?
A2:大きなメリットがあります。特に就寝時や在宅時に着用することで、鼠蹊部の締め付けから解放され、血流改善や肌トラブルの予防に役立ちます。「ふんどしパンツ」や「締め付けフリーショーツ」として現代風にリブランディングされた製品の多くは、構造的にズロースの利点を継承したものです。
Q3:海外の衣料品店で「ズロース(drawers)」と言えば現代でも通じますか?
A3:現代の英語圏では「drawers」という単語は非常に古風な響き(古語・ヴィンテージ用語)を持ち、一般的な店頭で使っても通じないか、歴史的な衣装と受け取られる可能性が高いです。現代の英語では「panties(女性用ショーツ)」「underpants」「briefs」「bloomers」などの表現を用いるのが一般的です。
まとめ:時代を超えて愛される「ズロース」の機能美と知られざる歴史
かつて日本の女性たちが身につけ、服飾と生活様式を近代化させる原動力となったズロース。白木屋火災というドラマチックな都市伝説の影で、実際には日本の気候に適した綿やクレープ素材を取り入れ、身体を締め付けない実用肌着として磨き上げられてきました。
タイトなフィット感を求めるトレンドによって一時は主役の座を譲ったものの、その優れた通気性、肌への優しさ、圧迫感のない構造は、シニア層や介護の現場、そして心地よさを最優先する人々の間で確固たる存在感を保ち続けています。時代が移り変わっても、人間の身体を健やかに包み込む機能美の本質は決して色褪せることはありません。 (出典: ズロース とは(Yahoo!ニュース))